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Scene 1) 街路
(片膝をついて満艦飾マコに花束を渡す、白スーツの蟇郡)
(蟇郡、緊張)
(ぱぁっと笑顔になるマコ)
(蟇郡、ほっとして、笑顔)
(猿投山、わはは)
(乃音、うふふ。犬牟田、にやり。微妙に寄り添う)
(皐月[短髪]、流子、顔を見合わせて、にこり)
皐月「女の子デートは、ここで解散か」
流子「じゃ、ここから先は姉妹水入らずってぇことで…」
(皐月、流子、二人歩き出す)
猿投山「そんな意地悪言わずに、混ぜてくださいよ」
(二人を追う)
Scene 2) セレクトショップ風の店頭
(男物の雑貨を選ぶ、皐月と流子)
皐月「男性への餞別って、何がいいんだろうな。せめて伊織に聞いてくれば良かった」
猿投山「伊織がどっか行くんですか?」
流子「ちげぇよ。美木杉と黄長瀬がそろそろ発つらしいんだ」
猿投山「ああ。生命戦維の残り探しの調査旅行ですか?」
流子「うん。出発する前にちょっと話そうって、今日」
猿投山「へえ!(楽しげに)」
(猿投山、こんなのどうだ、という感じで、旅行小物を流子に渡す)
(なごやかに笑う3人)
皐月「猿投山も来るか? ただ、伊織が生命戦維の話を聞きたい、というのが、今日の趣旨なので、わりに小難しい話になると思うが」
猿投山「俺だって、いちおう、生命戦維への関心が……」
流子「(にやり)ふーん、そうなんだ?」
猿投山「(不服げに)そんな頭悪い相手を見るような目で見るなよ」
(皐月、にやり)
Scene 3) レストランの個室
(ウェイターが、猿投山の分の椅子を運んでくる)
伊織「(丁寧に)今日は、出立前でお忙しいのに、お時間をとっていただき、ありがとうございます。こんなことをお聞きするのは本当に申し訳ないと思うのですが、一度、きちんと伺っておかないと、いつか、後悔する気がして」
(6人、食事をしている)
黄長瀬「話しにくい話になるってのは事前に聞いてる。お前には、急急吸引救命具の開発で、頑張ってもらったからな。今日は、なんでも答えるつもりだ」
伊織「ありがとうございます。……絹江さんという方」
黄長瀬「ああ。(それか、という表情)」
伊織「何をどう考えて、生命戦維は敵じゃない、って結論に達したのか? もし教えていただけるのでしたら、ぜひ」
美木杉「ほんと、聞きにくいとこへ来るね」
伊織「すみません。本当のことをいうと、極制服を作っている頃から、ずっと疑問だったんです。僕らは、生命戦維を使って生命戦維と戦おうとしていた。『絶対服従』のときは例外としても、生命戦維は僕の……、いえ、正確には、着用者の言うことを、なぜ、聞いてくれたのか」
皐月「伊織。そんな不安を持たせていたとは、すまなかったが。それは着用者の意志のほうが、生命戦維より強いから、だろう」
伊織「そうでしょうか。それは、皐月さまや流子さん、四天王くらいまでは納得できるのですが、一ツ星の学生たちも生命戦維から力を受け取ることができていましたし」
黄長瀬「生命戦維は、人間の進化を援けてくれた。姉が、生命戦維を敵じゃないと考えたのは、それだけだ。大した理由じゃねえ」
流子「前に話を聞いたときは、美木杉は、鮮血が、生命戦維に、私の神経のなんとかが組み込まれたものだ、って言ってたよな。純潔には皐月のあれは組み込まれてないんだろ? それでも着られた」
美木杉「ああ。鮮血は、流子くんの中枢神経組織のDNAが組み込まれたものだ、と、聞いている」
皐月「純潔は、人衣圧倒で押さえつけていただけだからな。私と純潔の関係は、流子と鮮血の関係とは違う」
伊織「流子さんの中枢神経組織?、どうやって取り出したのでしょう? 普通は神経を切り取って取り出したら、障害が残るのではないかと思うのですが」
流子「手術とか、したのかな? 父さんに手術された記憶って、まったく残ってないんだけど」
美木杉「流子くんがまだ赤ん坊で、纏博士が羅暁と一緒に手術をしたときに、流子くんの中枢神経組織を取り出していた、とか?」
(フラッシュバック : 手術をされる赤ん坊時代の流子)
流子「父さんが、羅暁を裏切る前に、鮮血の準備をしてた、って、変じゃねえ? もしかして、手術をして、神経とって、私が気づく前に生命戦維の作用で直っちまったのかな」
猿投山「いや、戦いを繰り返す前は、お前、ちゃんと、怪我してたろ? 俺と戦ってボロボロになってたじゃねぇか」
(フラッシュバック : 剣の装改から敗走し、ボロボロの流子)
流子「あ。そうだわ。傷の治りも、他の子よりちょっとは早かったかもしれねーけど、体質かなで、済んじまう程度だった」
伊織「(違和感を噛み締めるように)鮮血に、流子さんのDNAが使われていた?」
美木杉「ああ。そう聞いている。だから流子くんとだけ、意志疎通ができる、と」
伊織「けれど、鮮血は神衣と呼ばれていた」
美木杉「ああ、そうだ」
伊織「神衣というのは、生命戦維100%の服を意味します。違うものを混在させたら、それはもう神衣とは呼ばない。もともと羅暁の元にいた纏博士が、鮮血を神衣と呼ぶ理由がわからない」
皐月「鮮血の声が聞こえたのがDNAのせい? 鮮血が成長しきった後は、私も聞こえた。姉妹で遺伝子に共通部分があるせいか? あるいは私の血を吸ったせいか」
黄長瀬「実は、俺も、鮮血の声を聞いたことがある。纏に初めて会ったときだ」
伊織「本能字学園を急襲したとき?、ですか?」
(フラッシュバック : トイレの床にうずくまり、鮮血を抱きしめる流子)
黄長瀬「そうだ」
皐月「それはまだ、塔首頂上決戦で鮮血が急成長する前のはず」
美木杉「紬が、鮮血の声を、聞いた?」
黄長瀬「……鮮血が、『流子に手を出すな、私は許さない』、と言った。錯覚だと思ったんだ。あの時点ではな」
皐月「黄長瀬さんは、血の繋がりなんて」
黄長瀬「ないな。鬼龍院羅暁とも、装一郎氏とも」
美木杉「そもそも……、中枢神経DNAを使った意味って、何だったんだ? 人のDNAは原則、全身同じ……」
黄長瀬「お前が言い出したんだぞ!」
美木杉「僕が言い出したんじゃない。纏博士にそう言われたんだ」
黄長瀬「纏博士を信じきってた、ってことか」
(フラッシュバック : 纏博士の傍らに立つ絹江)
(フラッシュバック : 生命戦維入りの白衣を着る絹江)
(フラッシュバック : 絹江の姿が輝く)
(フラッシュバック : 布状に変容した絹江の身体)
黄長瀬「……美木杉。俺は姉さんが亡くなってから、博士のもとにはほとんど顔を出してない。姉さんを殺したあの服は、どうなったんだ?」
美木杉「あの白衣は、処分したと聞いているが」
(フラッシュバック : 死にぎわの絹江。血を吐く唇で、黄長瀬の耳元に囁く)
黄長瀬「姉さんは服に裏切られて死ぬ今際、俺に『実験は続けて』、と言ったんだ。自分が瀕死なのに、だぞ? でも、もし姉さんが、服とコミュニケートできていたとしたら」
美木杉「『今回の』実験は失敗でも、いつか成功することを確信していた、ということか?」
伊織「絹江さんは、成人していらっしゃった……、十代ではなかった、のですね?」
美木杉「ああ、そうだ」
皐月「生命戦維に耐性が強いのが十代であることは、REVOCS社もつきとめていた。研究レポートの日付からして、お父さまも知っていたはずです。なぜ、絹江さんが実験台に?」
伊織「纏博士は、生命戦維を大人に着せようとした、ということですか?」
皐月「おとな……(ハッとする)。縫は、お父さまを殺したが。お父さまに片目を潰されて戻ってきた。お父さまには、縫と互角にやりあうだけの戦闘能力があった……。縫からは、生命戦維を仕込んだ服を着ていた、と報告を受けた」
流子「(ハッとする)白衣!! 父さん、死んだとき、白衣だった!」
伊織「絹江さんと纏博士の身体のサイズは?」
美木杉「伊織くん、もしかして、同じ白衣だったんじゃないかって言うのかい? 絹江さんと博士の体格は、全然違う。纏博士が絹江さんの白衣をそのまま着ていたというのは、ありえない」
伊織「(切迫した口調で)誂え直していたとしたら?」
皐月「お前が、純潔を仕立て直したときのようにか」
伊織「純潔もそうですが。探の装を探の装改にしたときも、絆糸はそのまま使っています。絆糸は、服になろうとする意思を持たせた生命繊維、極制服を形作るための要の糸です。探の装の機能を『改』に再度発現させるために、あえて流用したのです」
皐月「探の装と、探の装改は、見た目はかなり違っただろう?」
伊織「探の装の本質は、光学迷彩と解析能です。解析デバイスを体表に出ないように調整したら、見た目が変わりましたが」
皐月「見た目はあまり意味がないと?」
伊織「はい。もし、もしもですが。(ためらう)いえ……」
流子「んだ?」
伊織「いや、まったく根拠がないので」
猿投山「もったいつけずに、言えよ! 伊織!」
伊織「(もったいつけてるわけではないと不服の顔から、気をとりなおして)もし、です。生命戦維を心から信頼する人が、生命戦維の服を着て。生命戦維の側が、好意を取り違えて、その人を服のようなものにしてしまったとしたら……」
黄長瀬「姉さんは、死んだように見えて、生きてたというのか?」
伊織「そこまでは言ってません。生命戦維の側に『悪意』がないのに、その人を死なせてしまったとしたら。残るのは、『人間の側にも、生命戦維に好意を持つ人がいる』という『記憶と経験』をもった戦維です。僕が、纏博士なら。その戦維は、最大限、活用します。処分は、しませんね」
流子「それが、鮮血と、父さんの服、ってことか? そういえば、鮮血は記憶が欠落しているって……。鮮血になる前の別の服の記憶が思い出せなくてすっきりしなかった、ってことか? 父さん……」
(フラッシュバック : 回想シーン第8話)
纏一身「お前が平穏な人生を送りたければ黙って去れ。俺の代わりに戦ってくれるなら、このハサミを持て」
纏一身「このハサミを持てば、必ず俺を殺した相手にたどり着く」
纏一身「だがお前には過酷な運命が待つ」
纏一身「お前に伝えなければならないことがもっとある」
(フラッシュバック : 〔強調〕)
纏一身「俺の代わりに戦ってくれるなら」
流子「片太刀鋏をくれたとき、父さんは、言った。俺の代わりに戦ってくれるなら、このハサミを持て、って」
伊織「纏博士は、ご自身で戦うつもりだった、ということですか? 流子さんと鮮血ではなく。ご自身を中心に、NDBの援護を受けて」
皐月「私が……、私が羅暁を目標にして、四天王に縫と鳳凰丸の対応を頼もうとしていたようにか」
美木杉「(やや感情的に)纏博士が!? そんな話は、聞いてない!」
黄長瀬「美木杉。二つ、いいことを教えてやろう。一つ。俺たちは、纏博士にまったく信頼されてなかった。自分が鬼龍院羅暁の婿だったことも、纏……娘が生命戦維を埋め込まれたことも、全く教えてもらえちゃいなかった。二つ。女子高生やってる自分の娘に戦わせるより、大人の自分が戦おうと考えるってのは、感情として理解できる」
伊織「でも、それならなぜ、結局、流子さんに鮮血を渡すことにしたんでしょうか」
(全員の目が、流子に鮮血を渡す役だった美木杉に集まる)
(美木杉、じっと考えている)
美木杉「(ぽつりと)老化、か」
流子「老化……」
美木杉「纏博士の体力は、急速に衰えていた。研究のしすぎじゃないか、って、何度も言ったんだが」
皐月「羅暁を倒す準備が整うより、衰弱のほうが早かった、とうことか……」
伊織「(皐月の顔を見る)皐月さま? ……言いますよ?」
皐月「(伊織に頷く)ああ。いまさら隠しても仕方ない」
伊織「皐月さまでも、純潔を着ると、消耗が激しかったのです。とくに、人衣圧倒状態のあとは、疲労感がひどく……」
猿投山「(驚く)なんだって?」
皐月「(苦笑)隠していたがな」
伊織「心眼通でも、分らなかったか?」
猿投山「神衣の気が強すぎたんですよ。神衣の強烈な気で、皐月さま自身の気は覆い隠されてしまっていた」
皐月「なるほどな。流子は? 鮮血も疲労感があったのか?」
流子「あたしは、最初のころこそ貧血あったけど……。鮮血の姿を恥じなくなってからは、鮮血のせいで疲れる、って感じはなかった。私には、体内に同化した生命戦維があるからな。でも、父さんは、生命戦維の服を無理に着て、弱っていったのか」
美木杉「そんな大事なことを明かしていただけていなかったのは、正直、ショックだが。鮮血は、博士がほとんど一人で開発に携わっていた。ご自分の衰弱に気づいていたがゆえの、『2枚目の戦闘服』が鮮血だったのかもしれない……」
流子「父さんが、自分で羅暁を倒すつもりだったのなら、私を家から遠ざけていたのも、解る。最初から、私に羅暁と戦わせるつもりなら、訓練をするなりなんなり、もっと準備させるはずだもんな」
伊織「話は違うのですが……(美木杉に)」
美木杉「うん?」
伊織「美木杉先生は、装一郎さまと血縁関係はおありですか?」
美木杉「いや、まったく」
伊織「僕は、皐月さまがお持ちの写真でしか、装一郎さまを知らないのですが。美木杉先生と、遠目には容姿が似ているように思います。今の話をしていて。姿をすっかり変えてしまわれた装一郎さまは、皐月さまを迎えにくるときに、美木杉先生を影武者に使うつもりだったのではないか、と、ふと思ったので」
美木杉「なるほど……」
伊織「纏博士と、装一郎さまが同一人物だと知ってから、ずっと疑問でした。生きていらっしゃるなら、なぜ、皐月さまにそれを知らせなかったのか。皐月さまを羅暁の元から助けだして下さらなかったのかと。きっと、ご自分が羅暁と戦うおつもりで、それが第一の優先事項だったからこそ……」
皐月「ああ(目に涙が浮かぶ)」
(皆、心配そうに皐月を見る)
皐月「いや。単なる、仮説だったな。お父さまが何を考えていたのかは、本当のことは、わかりは、しない」
流子「……でもさぁ、皐月。信じちまえよ。父さんは、私や姉さんに戦わせるんじゃなくて、自分で戦うつもりだったんだって。そのために、その使命があるから、姉さんにも会いにいけなかったんだって。他に説明のしようがないんだ、信じちまえばいいじゃないか。父さんは、姉さんのことも、私のことも、守ろうとしてくれていたんだって!」
Scene 4) 街路
(大きなキャスターつきのトランクを引いて、歩み去る、美木杉と黄長瀬)
(見送る、4人)
(皐月は遠くを見る目。伊織は黙って寄り添う)
(流子は、爪先に目を落とす。猿投山がすぐ横に寄り添う)
猿投山「……うちの、親父さ」
流子「うん?(猿投山を振り向く)」
猿投山「(温かな微笑で)普通の、親父なんだよ」
流子「そっか(片頬に笑み)」
猿投山「コンニャク屋の。まぁ、社長だけど。吹けば飛ぶみたいなちっちゃな会社で、がんばって仕事して、コンニャクがどうの、お客様がどうの、従業員がどうの、ってさ。ちまちま、ちまちま、毎日、頑張って。……俺、悪ガキから番長になって。心配も、かけたし、迷惑も、かけたし。そんでも、親父は、俺にさ。お前がお天道様に顔を向けている限り、お前の親であることから逃げも隠れもしない、って」
流子「いいな、そういうの」
(流子、皐月を振り向く)
(黙って寄り添う皐月と伊織)
(カメラ引く。ありふれた、平和な街角)
(エンドマーク)